ケルトン教授と三橋氏との対談 その3「MMTポリティクス」

ステファニー・ケルトン教授と三橋貴明氏の対談の3つ目の動画、「MMTポリティクス」というタイトルです。

主な内容を抜粋して、ご紹介します。


【三橋貴明×ステファニー・ケルトン】MMTポリティクス

(三橋氏)MMTは、アメリカでは左派の政治家が、日本では右派の政治家が担いでいるようですが、MMTには政治的な色はありませんよね?

ケルトン教授)そのとおりです。
MMTは、論理を描写するプロセスであり、貨幣シートについてはっきりと分かるための言説です。
つまり、お金のオペレーションを理解する、そうすることによって、より良い政策議論ができるようにすること。
左派の人たちと右派の人たちがきちんと議論できるようにすること。

(三橋氏)アメリカでは、共和党トランプ大統領もインフラ整備を主張していて、私から見れば、共和党の方々もMMT的に見えるが、トランプ大統領MMT主張者に対して、社会主義だという批判をしている。
そのへんの感覚がよくわからない。

ケルトン教授)これは別に新しい現象ではなく、共和党は昔から、そのようなラベル付けを利用してきた。
民主党という政敵について描写するために。
MMTも、ビル・クリントンも、バラック・オバマも、社会主義者と呼ばれた。
MMTだから、そのように批判しているというのではなく、100年経っても止めない政治ゲームなんです。

(三橋氏)MMTというのは本来、右左関係ありませんから、MMTで貧困に陥ってしまった国民を助けて、同時に国家を守るために予算をつけても、全然構わないですよね?

ケルトン教授)もちろんです。
MMTの論点は、政治指導者に考えてもらうということ。
本当の支出の制約、つまり、人工的な、政治家たちが存在すると思っている制約ではなく、本当の制約について考えるということ。
実体経済を均衡させることを目標にする、予算均衡ではなく。
ですから、今我々がやっていることは予算均衡のために経済を調整しようとするが、そうではなく、予算を調整することによって経済を均衡させなければならない。
よって、所得がない、生計が苦しい人たちが、アメリカ人として、日本人として、誇りを持って生計が立てられるようにする。
彼らが悩ましい状況だから助けが必要だ、その時に財政余力があるなら、それができる時にせよということ。
それにMMTが役に立つはず。

(三橋氏)今「制約」とおっしゃいましたけど、私たちがものやサービスを生産する力、ケルトン先生は「リソース」と呼んでいますが、そのリソース、キャパビリティをどんどん強化していくこと自体が経済成長であって、みんなが豊かになる道だと思っているんですけど、これで合っていますよね?

ケルトン教授)そうです。
1つ大切なことは、時間とともにそういった能力を向上させるということ。
もっと経済で生産能力を拡大するということ。
ただ、簡単に入手できるのは、今、生産能力として稼働していない既存設備。
働いていない人たちや、休眠中の工場を活用する。
ですから、まず既存の設備を100%使うということ。
そして時間の経過とともに、経済に投資することによって、さらに生産能力を向上させるということ。
そうすると、インフラ投資、教育投資、研究開発投資、3つの重要な分野に投資するということになります。
それにより、長期的な潜在成長力が高まることになる。

(三橋氏)アメリカの政治におけるMMTの議論を見てびっくりしたのが、共和党のデイビッド・パーデュー上院議員が4人の仲間とともに、上院に対して、MMT非難決議を提出した。
これは政治的なパフォーマンスでやっているのか、それとも、MMTが問題であると本気で言っているんですかね?

ケルトン教授)政治的なパフォーマンスです。
彼らが何をやろうとしているかというと、民主党に言わせたいんです。
赤字は危険で悪いものという意味で、MMTに注目するというふうに。
ですから、MMTによって、立法府や議員に対して、正しい情報が提供されてしまうのではないか。
そうすると、国民の大半を助ける政策になってしまうんじゃないかということを心配しているんです。
共和党は、一掴みの人しか助けないような政策を好んでいるから。

(三橋氏)国民を助けるような情報が国会に行くというのが、なぜ問題なのか、わからないんですけど、それがアメリカの政治だと問題になってしまうんですね?

ケルトン教授)特に、これでどうこうなるということではないと思います。
単なる劇場での演技です。
ただ、上院議員が、MMTは危険であるという決議を提案するということは、自分たちの既得権益に対して危険であるということを意味する。

(三橋氏)日本でも、先ほどの上院議員のような財政破綻論者の方々がたいへん多く存在しておりまして、私たちは、財政破綻はありえない、政府はもっとお金を使うべきと言っていて、常に攻撃をされているんですけれども、日本やアメリカの財政破綻論者の方々が、MMTについて正しい知識を身に着けて、考え方を変えるというのは、起こり得るんでしょうかね?

ケルトン教授)私はこのように考えております。
アメリカの共和党に関しては、私が一番良く知っている政党ですから、もう何十年にもわたって、このように主張しております。
国が破綻するかもしれない、赤字は危険、債務は持続不可能だ、財政危機だ、っていうことを何十年も前から言っている。
でも、与党だった時に、行政府も立法府も過半を占めていた時に、彼らが何をやったかっていうと、赤字を膨らませ、債務を膨らませたということです。
つまり、彼らは何も気にしていないんです。
債務も赤字も怖くない。
チャンスがあれば、膨大な減税を可決させて、赤字を増やしたわけです。
つまり、共和党はわかっているということのエビデンスでしょう。
赤字は誰かのためになる、彼らの赤字は誰かの黒字だから。
彼らが言ったことは、赤字を利用することによって、自分たちが助けたい人たちの黒字にした。
それは、大企業と富裕層です。

 

(三橋氏)その話を聞くと、日本の場合は、政府の支出の実績(下図:2001年以降、政府支出がほとんど増えていない)が、誰も財政についてわかっていないというエビデンスになっている気がするんですけれども。

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ケルトン教授)そうなのかもしれません。
これは本当にショッキングな図ですけれども、政府部門が全く経済の健全化に寄与していないということです。
先ほど申し上げましたとおり、経済成長を牽引する方法は2つあって、公的債務か、民間の赤字かということです。
つまり、経済成長の重荷を全部民間に背負わせている。
そして、民間がお金を借りて強い経済を牽引することを期待しているけれども、そうなっていないわけです。
日本の政府が、明らかに、本来であればできた、日本国経済を牽引するということをやっていないということですね。

 

(三橋氏)MMTについて日本国内で主張すると、MMTはインフレ率をコントロールできなくなる、ハイパーインフレーションになるという批判を受けるんですけれども、そのあたりはどう反論されますか?

ケルトン教授)まず、ハイパーインフレーションの確率は基本的にゼロです。
ですから、もうそれは俎上に置くのをやめましょう。
そんなこと、あり得ないわけですから。
日本という国は、20年あるいはそれ以上、少しでもインフレを導入するために悩ましい状況だった。
日銀がセットした2%の目標値だって達成できていないわけです。
ですから、ちょっとインフレが発生したならば、歓迎されるでありましょう。
MMTは、物価制御の方法ではありません。
そうではなく、財政政策を規制することによって、完全雇用を極大化して、インフレを避けるという概念です。
物価は、エコノミストもあまりちゃんと理解していない。
インフレもそうです。
エコノミストも認めるインフレのモデルは壊れている。
だから、アメリカでも、何十年も前から2%(のインフレ率)を達成できていない。
欧州でも、2%を10年でやっと達成した。
日本でも、2%の(インフレ率の)ターゲットをなかなか達成できないわけです。
ですから、インフレとか物価の仕組みについて、我々はあまり理解できていないんです。
ただ、理解しているのは、経済において限界があるということ。
インフレが起きる時は、我々の生産能力を超えて何かやろうとするということではなく、供給サイドでコストが上がるから物価が上がる時なんです。

(三橋氏)おっしゃるように、日本では20年以上もデフレが続いて、物価がマイナスなんですけれども、それでもMMT的な財政支出をやりましょう、インフレ率のコントロールをしましょうと言うと、そんなことをしたらインフレになるじゃないか、という反撃を受ける。
デフレ脱却とはインフレにすることのはずだが、そのへんの心理状態って、みんなどうなっちゃってるのか。
もし何か、お気づきになることがありましたら。

ケルトン教授)厳密に、なぜかということは私にはわかりませんが、MMTについて聞くと、しばしば誤った説明がされてしまう。
つまり、MMTは、お金を印刷せよと言っている理論だというふうに説明されると、即インフレが頭に上ってしまう。
それを克服しなくてはならない。
それが難しい。
まずやらなくてはならないのは、MMTの正しい知識を提供すること。
決して、お金を印刷する理論ではありません。
それを説明すると、インフレに対する懸念が払拭されると思います。
でも、MMTはお金を印刷せよと言っていると、本能的に、え?それだとインフレになっちゃう、っていうことになってしまう。
先ほど、三橋氏が見せてくれた(日本の)マネタリーベースが、もうクレイジーな状況になっている。
10年貨幣を印刷してもインフレになっていないということを実証しているけれども、国民の心理は、やはり、それに縛られているわけです。
お金を印刷するということは、明らかにそれで自動的にインフレ圧力になると思ってしまうわけです。

(三橋氏)もう1つ、MMTで財政をコントロールしてインフレ率をコントロールしましょう、実際にはインフレ率に基づいて財政をコントロールしましょうと言うほうが正しいと思いますが、こういう説明をすると、民主主義で財政やインフレ率のコントロールはできないという、昔のジェームズ・ブキャナンのような反論を受ける。
アメリカでも同じなんでしょうか?

ケルトン教授)(アメリカでは)MMTで、民主主義が犠牲になるとかは聞きません。
ただ、こういう懸念はあります。
MMTによって貨幣制度に対する理解が高まるから、政府にお金がなくなるということがあり得ないと国民が知ってしまうと、政治プロセスに支障がきたされると。
政府に対する要求が国民から突きつけられるから、もっと教育に投資してほしい等、我々は全部欲しいんだと国民が訴えるということを心配している人はいます。

 

(三橋氏)もう1つ気になっているのが、財政拡大を日本に対しても提言している、例えばポール・クルーグマンであったり、ローレンス・サマーズといったエコノミストの方々が、なんでMMTを批判しているんでしょう?

ケルトン教授)子供の頃、小学校2年生くらいの時に、どこからか引っ越してきた子供がいて、みんなから注目を浴びて、みんなその子と遊びたがるから、自分が取り残されてしまう。
だから、新入生は病気持ちだとか、あいつ意地悪だから話すのやめようとかいう噂を流すのと似たようなことで、彼らは、MMTがここまで注目を浴びているということに、脅威を感じているのではないでしょうか。
なんでこんなに注目が集まっているかという1つの理由は、大きなテーマに関して正しいからです。
向こうの理論よりも、経済政策に関して、我々のほうが良い実績を持っているわけです。
だから、若干不安を感じているのではないでしょうか。
我々の経済予想に関しても、彼らよりもうまくやってきたということで注目を浴びていて、それが気に食わないんだと思います。

 

(三橋氏)MMTの政策、ロジック、またはツールと言ったほうが良いのか、JGP(Job Guarantee Program:雇用保障プログラム)というものがありますが、こちらを簡単にご説明いただきたい。

ケルトン教授)はい。
これは、MMTの、インフレ関連での、一番重要な特徴です。
なぜなら、雇用保障は、政策として、インフレを管理することに寄与するからです。
つまり、我々の提案は、今は失業をもってインフレと戦おうとする。
中央銀行は、適性水準の失業率で、その人達に職を与えないで閉じ込めておけば、特定の人が職を持っていないと経済の余地ができるからということで、インフレを管理しようとする。
それは残虐で効率が悪いと、MMTは主張するわけです。
つまり、失業者のバッファーでインフレを管理するのではなく、雇用者のバッファーを使いましょうとMMTは主張するわけです。
連合政府は、資金を提供して、働きたい人でも経済で職を見つけられないのであれば、公的部門で基礎給料を払い、職を提供することを保障する。
ですから、景気の上下が自然に起きる時に、景気後退期で弱体化局面において、JGPが拡大し、赤字が増える。
それによって、所得と消費が下支えされる。
そして、景気後退が短期化される。
その後、景気が良くなれば、またその人達は民間に戻る。
よって、政府の職員の数が減る。
だから、赤字も減る。
非常にパワフルな新しい自動安定化装置になるわけです。
つまり、経済が弱い時に赤字が膨らむ、そして、逆だと縮む。
経済の安定化になるし、またその過程を通して物価も安定化するわけです。

(三橋氏)JGPMMTで、世界中で完全雇用が達成されると、いわゆる経済移民の方々は移民に行かなくて済むようになって、様々な問題が解決しますよね。

ケルトン教授)私はそれが正しいと思うんです。
他の理由で移民するということはあると思います。
常に経済的な理由で移民するのではなくて、気候変動だって1つの理由であって、環境が悪化して、自国において住めなくなって、引っ越したいと思うことがあるかもしれない。
それはさておき、もし国内において職があれば、大量移民ということにはならないでしょう。

(三橋氏)だから私は、MMTは人類の文明を救う、くらいに考えておりますので。(笑)

ケルトン教授)はい。(笑)
野心的で、おっしゃることが正しいことを願っています。

 

高家さん)MMTを知ると、天動説から地動説に変わったくらいのパラダイムの転換が起きたのかと思う。
逆に言うと、天動説派からの抵抗もすごいことになるのかなと思う。
私たち国民がMMTという正しい貨幣論に基づいて、地動説を広めるために、一人ひとりがどんなことをしたら良いでしょうか?

ケルトン教授)もうなさっているでしょう。
つまり、国民に情報を提供しようとしているわけで、それが一番大切なことです。
なぜなら、これが単に、学者の間でのケンカとか、政治家の間での戦いでしか過ぎないのであれば、進化はないわけです。
私の上司は、変化は、トップダウンではなくて、ボトムアップなんだと主張しています。
皆様がやろうとしているのは、教育をしようとする、ボトムアップ的な勢いで、変化をきたそうとするようなプロセスをなさっているんだと思います。
人は知らなくてはならない。
国民は、政府が弱くないし、破綻もしていないし、もっとできるんだということを、理解する必要があります。
世論がそれを理解すれば、政治指導者に、より良い政策を実践せよと訴えることができる。
そうでないと、既得権益が新しいアイデアを阻もうとする。
ですから、皆様がなさっていることこそ、正しい方向に我々を向かわせることになります。

(※一部、意味が伝わりやすいように、通訳者の言っていることを修正・補足しています。)

 

MMTは貨幣理論ですので、それ自体には政治的意図はありません。

ただし、JGPを始めとする「大きな政府」寄りの政策との親和性が高いため、弱者救済を信条とする政治に結びつきやすいようです。

またケルトン教授も述べている通り、インフレの制御については、決定的な方法や理論はなく、難しいとのこと。

よくMMTではインフレがコントロールできないと言われますが、インフレのコントロールが難しいのは、別にMMTに限った話ではなく、どのような経済政策においても、注意深くインフレの要因を分析して対処する必要があると思います。
とは言え、インフレのコントロールは、現在も世界各国の政府が普通に取り組んでいることですので、日本だけがインフレを怖がってデフレを放置していたら、「失われた〇〇年」の数字だけが増える結果になるでしょう。