ケルトン教授と三橋氏との対談 その2「MMTと日本経済の謎」

ステファニー・ケルトン教授と三橋貴明氏の対談の2つ目の動画、「MMTと日本経済の謎」というタイトルです。

主な内容を抜粋して、ご紹介します。


【三橋貴明×ステファニー・ケルトン】MMTと日本経済の謎

(三橋氏)下の図の通り、日本は緊縮財政をしている。
政府がお金を使わなかった結果、GDPが成長していないのは当然だと思いますが、いかがでしょうか?

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ケルトン教授)おっしゃる通りですね。
日米両国とも金融危機を経験し、壊滅的な損失が民間セクターにおいて発生した。
それにより、非常に野心的な財政上の対応が必要となり、バランスシートを直して金融危機後の対応をしなければならなかった。
しかし、財政政策が十分な仕事をしていない=政府が十分な支出をしていないということですので、回復のために必要な条件を整えることができなかった。
その結果、日本は、ゆっくりとした、精彩を欠いたような経済成長になっている。
オレンジ色の線を見ると、アメリカのほうが、政府支出については、より良い仕事をしたと言える。
何が起こったかというと、自動安定化装置が機能した。
財政面ではあまり多くのことをしなかったため、回復はあまり芳しくなく、時間もかかった。
三橋氏がおっしゃるとおり、政府の支出は非常に重要な部分である。
それがなければ、より強い回復の条件を整えることができない。

(三橋氏)日本国民のほとんどが勘違いしているが、政府の赤字は、政府以外の経済セクターにとっては黒字です。
ですから、財政赤字が増えたということは、我々の黒字が増えたという認識になるべきだが、何故かそういう報道が全くされないので、緊縮財政が続いてしまっているというのが現状です。

ケルトン教授)そうですね。
私が望んでいるのは、政府の機関が、予算についての報告の仕方を変えてほしいということ。
バランスシートがどうなっているかという見解よりも、我々にとって有益な形で情報を伝えてほしい。
政府が財政赤字をこれだけ持っているという言い方をするよりも、非政府部門がこれだけ黒字を持っている、と言ったほうが良い。
そのほうが国民は理解しやすい。
政府がやっていることが、経済にプラスになっている、財政的にプラスになっている、特定の具体的な数字をもってそれがわかると思います。

(三橋氏)日本は政府支出を拡大しなかった結果、GDPが増えていないのですが、ある意味で日本の事例というのがMMTの正しさを証明したような部分がある。
ランダル・レイ教授のMMTの教科書「Macroeconomics」でも、日本のグラフがいくつも紹介されていました。

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例えば、この図は、日本の政府の債務について1970年から推移を見たものです。
オレンジの棒グラフです。
実は、2018年の政府の債務は、1970年と比べると152倍になっている。
経済学者の主張どおりであれば金利が上がるはずだが、青い折れ線グラフの金利は下がっていった。
これは経済学者は説明できるんですかね?

ケルトン教授)MMTエコノミストならば説明できます。
主流派経済学者には困難だと思います。
(主流派経済学の)モデルを使うと、このようなことは起こらないと言う。
日本だけではなく、アメリカでも同様の関係が起こった。
アメリカでも)GDPに対する負債の割合は着実に伸びていて、10年もの国債金利はずっと下がってきました。
何十年もそうである。
したがって、アメリカについても全く同じような絵を作ることができるはずです。
主流派経済学者は、それに困惑を覚えました。
というのは、モデルを使うと、債務が増えると金利が上がるはずだと思っているから。
しかし、それは起こらなかった。
実際には、金利はずっと下がってきた。
したがって、答えとしては、中央銀行政策金利を設定して、長期金利というのが、だいたいそれに追随する。
言い換えるならば、金利は落ちてきました。
というのは、中央銀行が利下げをしたからです。

(三橋氏)ということは、メインストリームの経済学が言っているクラウディング・アウトというのは、正しくないという理解でよろしいですか?

ケルトン教授)全く間違っています。
何故間違っているかという理由なんですけれども、いろんなイベントが順番立って起こるわけです。
クラウディング・アウトというのは、赤字があって、借り入れを増やさなくてはならなくなった時に、円のプールが限られている。
その場合、政府が借り入れを増やすとなると、その固定された(お金の)供給の中の多くを取ってしまわなければならなくなる。
そうすると、その他の民間のためのお金が少なくなってしまうわけです。
したがって、貯蓄も下がる、金利も上がるということになります。
そして金利が上昇すると、投資支出は下がり、GDPも下がってしまう。
クラウディング・アウトは間違っています。
当初のところから違っている。
政府が赤字を抱えた時には、民間の貯蓄の供給が減るのではなく、増えるんです。
そういうふうなことをすべて理解すると、クラウディング・アウトというのは起こらないはずです。

 

(三橋氏)国債金利もそうですが、私たちが銀行からお金を借りる際の金利というのは、どういうプロセスで決まるんでしょうか?

ケルトン教授)中央銀行がまず金利を設定します。
オーバーナイト金利をまず設定しますけれども、日本では良い教訓がありまして、中央銀行というのは、自分たちがイールドカーブのどこでも選ぶことができるということ。
短期金利を設定するだけでなく、実際的には長期の金利も、もし選ぶならば、自分たちが決めることができる。
したがって、どのような金利も、その政策の変数となり得る。

(三橋氏)デフレーションだと世界全体で金利が下がっているように見えるけれども、デフレーションやインフレーションのような経済のファンダメンタルは影響しないのでしょうか?

ケルトン教授)影響は及ぼします。
つまり、スタグネーションをグローバルで起こしてしまうということで、中央銀行金利をゼロあるいはマイナス金利にしてしまうと起こり得ます。
金利の環境下においては、グローバルな弱さ、主要な経済国の弱さを反映していることになります。

(三橋氏)ということは、日本は今、世界で一番弱いということでよろしいですね?(笑)

ケルトン教授)(笑)ということは、日本の中央銀行が日本経済におけるストレインというものを非常に低いと評価していた。
それが反映しているんです、低金利やマイナス金利に。
おそらく、そこで信じられているのは、何らかの形で、マイナス金利というのが刺激をしてくれるんじゃないかと。
そして回復の助けになるんじゃないかというのを、思っているのだと思います。
もちろん、そこには議論の余地がありますが。

(三橋氏)日本は面白い国で、長期金利がマイナス0.3%に上がりました、と報じられる国なんです。

ケルトン教授)長期金利というのは、その市場参加者が、中央銀行短期金利をどのように決めるかという気持ちを反映しているんだと思います。
したがって、非常に珍しい状況が、借り入れコストに関しては発生しているということです、日本においては。

(三橋氏)昨日のシンポジウムで、いわゆるリフレ派の政策についてケルトン教授がお答えになった時に、金利を下げても、我々民間側が(お金を)借りる気がないのだったら、それほど効果はないとおっしゃいましたけれど、このあたりをご説明いただけますでしょうか?

ケルトン教授)もちろん。
金融政策が機能するのは、その信用のコスト、つまり、金利を設定することによってです。
それに対して人びとは、お金を借りるということで、そして日本経済に支出をするということで反応するわけです。
したがって、金融政策というのは、人びとが負債を抱えようとする時に機能するわけで、その経済を成長させるためには2つの方法があります。
外部セクターというのは貿易なんですけれども、それを外すと2つの方法があります。
1つは民間部門の信用、つまり、借り入れです。
もう1つは公的部門の負債ということです。
中央銀行が何をしようとしているのかというと、経済を成長させたいわけです。
けれども、民間部門の信用創造に頼っているわけです。
しかし、その問題というのは、企業がたくさんの顧客を持っていなければ、お金を借りる余裕がない。
生産能力や雇用を増やす必要もない、機械を買う必要もない、工場を買う必要もない。
そして顧客、つまり家計というのが、十分な所得成長に対する自信を持っていなければ、お金を借りようとしません。
負債というのは、自分たちの所得から返済しなければならないので、所得や賃金が増えていない時には、難しいわけです。
借りたいと思わないわけです、人びとは。
支出ができないわけです。
今後、返済にあてるための所得があるかどうか不安だからです。

(三橋氏)我々は、自信がないっていうことですよね?

ケルトン教授)その言い方のほうが良いですね。
そのとおりです。
結局は、その「confidence」の問題なんです。
企業も自信を持たなければならない、つまり顧客が増えるだろうと。
また家計のほうも自信が要るわけです。
自分たちの所得が増えるだろうというような。
もし新しい負債を抱えたら返済できるという自信が必要なんです。
だから「confidence」です、おっしゃるとおり。

 

(三橋氏)面白い図がございまして、リフレーション政策により、我が国はマネタリーベースを2013年以降に猛烈な勢いで拡大してきました。
いわゆるQE(金融緩和)政策です。
すでに370兆円マネタリーベースを拡大したんですけども、インフレ率が上がったのは消費税の増税の時だけという、見事なまでの失敗例なんですけども、この図を見て、ご感想を伺いたいんですけれども。

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ケルトン教授)素晴らしいグラフだと思います。
これによって主流経済学派の考え方が本当に逆さまになっていると思います。
つまり、銀行に対してお金をいっぱい出せば、それによって成長とか貸し出しが増えるはずだと思っていたわけです。
しかしながら、それは全くの間違いだったということが、これで証明されております。
多くの学びがあったと思います。
QE潜在的に、堅牢な経済回復をもたらすかどうかですけれども、銀行部門に対してどんどんお金を注入することによって、経済をリフレすることができる。
それがインフレ的になると思っていたけれども、それがうまくいかないという、このエビデンスは最高のものだと思います。

(三橋氏)このデフレーションが続いている状況で、おそらく日本は10月に消費税を増税することになると思うんですけれども、これはケルトン教授のおっしゃる、経済からお金を抜くと、私たちの支出能力を下げるということなんですけど、これは間違っていると思っている私が、間違っているんでしょうか?

ケルトン教授)消費税というのは、ある一定の消費支出というものを減退させると思います。
ということは、政府が実際にやりたいことの真逆ということになります。
つまり、政府はもっと堅牢な日本経済を作りたいと思っているのに。
したがって、税金の目的というのは、支出能力を減らすということなんです。
もしリフレをしたい、そして経済成長を達成したいということならば、もっと人びとに支出をしてもらわなくちゃいけないわけです。

 

高家さん)MMTで、誰かの黒字は誰かの赤字という事実を知ったんですけど、政府が黒字になると、私たち国民や企業が赤字になりますよね。
にもかかわらず、日本のプライマリー・バランス黒字化の目標が典型かと思いますが、世界中の政府が財政黒字化を目標にしているのは、なんでなのかなと思う。

ケルトン教授)黒字を目標にしているというのは、すべての国のことについてではないと思いますが、米国においては財政赤字が上昇しているということはわかっており、何兆ドルという記録的な高さになっている。
財政赤字というのが、今後数年でそれくらいの規模になるだろうと予測しておりますが、ほとんどの国では、おっしゃるとおり、レトリックとしては少なくとも言っていると思いますが、彼らはプライマリー・バランス黒字化を達成したいと、赤字を減らしたいと少なくとも言っていると思います。
政府の予算が黒字になっているからといって、必ずしも民間の状況が悪くなるということはありません。
というのは、3つの要素を考えなければならないわけです。
日本の政府部門、民間部門、そして世界の他の国々という3つあるわけです。
ラッキーなのは、政府が予算赤字を減らしていく、しかしながら、他の国々が、日本のものをいっぱい買うことによって支出を増やしていっている。
そうすると、ひょっとしたら、日本国内の民間セクターを守ってくれるかもしれません。
その場合には問題は起こりません。
それは大きな「if」ということです。
したがって、もし日本政府が赤字を減らそうとして、しかしながら失った支出を世界の他の国々が賄ってくれなければ、日本の民間セクターも大きな問題を抱えることになるでしょう。

(※一部、意味が伝わりやすいように、通訳者の言っていることを修正・補足しています。)

 

日本経済の謎とは、超低金利でも民間がお金を借りないような弱い経済状況であるにも関わらず、経済成長の要である消費支出を減退させるような消費税増税を行おうとしていること、その1点に尽きると思います。