新型コロナウイルスRT-PCR検査の概要

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染の有無を検査するためのいわゆるPCR検査が重要視されてきています。

例えば、アメリカのハーバード大学からは、大規模に検査し、追跡し、隔離すべきという提言が4月20日付で出されています。

翻って、日本では、PCR検査の体制が追いついていないためか、検査数が伸びていないのが現状です。

検査をしないということは感染拡大の状況を把握できないということであり、把握ができないということは感染拡大への対策を練ることもままなりません。

日本においてPCR検査の体制が整わないのは、そもそもPCR検査がどのようなものであるか理解されていないせいではないかと思えてきました。

PCR検査は、病院等でよく行われる患者から採取した検体中の物質の量や濃度を測るような検査や、抗原抗体反応を利用した検査とはやや性質が異なるので、改めて理解が必要と考えます。

ここでは、国立感染症研究所(以下、感染研)が公開しているマニュアル(2020年3月19日更新版)に沿って、新型コロナウィルスRT-PCR検査の概要をまとめたいと思います。

 

マニュアルの最初に

新型コロナウイルス(2019-nCoV)の遺伝子領域2か所、open reading flame 1a (ORF1a)およびspike (S)を特異的に検出する2-step RT-PCR法、あるいは(註)TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による遺伝子検査により2019-nCoVを同定する。

と記載されています。

 

検査は、大まかにいうと3つの操作によって行われます。

①検体採取

RNAの抽出

③RT-PCR

 

以下、順に内容を確認していきます。

 

1.検体採取 

感染研では、検体採取については別途マニュアルが用意されています。

なるべく喀痰などの下気道由来検体の採取をお願いします。痰が出ないなど、下気道由来検体の採取が難しい場合は鼻咽頭ぬぐい液のみで構いません。

とのことで、たん、もしくは鼻の奥をスワブ等で拭って、検体を採取するようです。

 

また検体採取だけでなく、検体の輸送についても留意点が記載されています。

 

2.RNAの抽出

検体中の新型コロナウイルスの有無を確認するために、まずはウイルスのRNAを抽出する必要があります。

この操作の際の注意点として、

・バイオセイフティーレベル(BSL)2+でおこなう。

・保護具(PPE)を着用する。

・検体容器からエアロゾルを発生させない。

・他の遺伝子や、RNase(RNA分解酵素)の混入を防ぐ。

等が記載されています。

 

RNAの抽出は、感染研のマニュアルには、QIAGEN社製の「QIAamp Viral RNA Miniキット」を使用した際の手順が記載されています。

大まかな手順は、

検体を溶解バッファー(Buffer AVL)に混和させて溶解し、

QIAampスピンカラムに入れ、RNAを吸着させ、

洗浄バッファー(Buffer AW1、AW2)で順次洗浄し、

溶出バッファー(Buffer AVE)でスピンカラムからRNAを溶出させる

という内容で、手法としては固相抽出にも類似しています(下の図3の②〜④の操作)。

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詳細については、QIAGEN社のWebサイト(上記リンク先)に資料等がありますので、そちらを参照ください。

またQIAGEN社製以外の、同様のキットを使用しても問題ないでしょう。

 

スピンカラムから溶出させたRNAを含む液を使用して、次の操作であるRT-PCRを行います。

RNAの抽出とは、要するに、採取した検体から新型コロナウィルスのRNAを精製するための操作です。

この操作が上手くいかない、例えば、

・RNase(RNA分解酵素)を混入させ、ウイルスRNAが分解されてしまう

・ウイルスRNAをスピンカラムから溶出し損ねる

等により、新型コロナウィルスのRNAを損失させてしまえば、その後RT-PCRを行っても検出されなくなってしまいます(仮に新型コロナウイルス感染者から採取した検体であっても陰性と判定される=偽陰性)。

またRT-PCRを妨害するような夾雑物を除去するという目的もありますので、RNA抽出の一連の操作は非常に重要です。

 

3.RT-PCR

RT-PCRは、まずRNAを逆転写反応(Reverse Transcription)によりcDNAへと変換し、そのcDNAに対してPCRを行い、目的のcDNA領域を増幅させます。

 

感染研のマニュアルでは、逆転写反応の後、nested PCR(外と内のプライマーを使用して2回のPCRを行い、特異性を上げる)を行う手順となっています。

Nested PCRに用いるプライマーの、新型コロナウイルスRNA上の位置についても、感染研のマニュアルに下図のように示されています。

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(感染研のマニュアルより引用)

 

感染研のマニュアルでは、

1回目のPCRでは
・ORF1a領域の上図①と②間
・Spike領域の⑦と⑧間

2回目のPCRでは
・ORF1a領域の上図③と④間
・Spike領域の⑨と⑩間

に相当するPCR産物が得られるようになっています。

 

操作としては、

逆転写反応(1st strand cDNAの合成)

1st PCR

2nd PCR

と順に行います。

その後、PCR産物を電気泳動に供して、確認します。

 

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(感染研のマニュアルより引用)

上図の電気泳動の左の絵がORF1a領域、右の絵がSpike領域に相当します。

感染研のマニュアルによれば、

陽性コントロールで目的サイズのバンドが検出され、陰性コントロールで検出されないときに試験成立とする。

2nd PCRで目的のサイズに近い大きさのバンドが検出された場合は陽性とする。されなければ陰性とする。

Nested RT-PCRにおいてはバンドが確認されれば陽性と考えることができるが、各施設における1例目の検出においては、シークエンス解析を行う事を推奨する。

とのこと。

上図の電気泳動でも、感染者由来サンプルとコントロールではバンドの位置(PCR産物のサイズ)が異なっていますが、実際の新型コロナウイルスが変異している可能性を考慮しているのか、多少サイズが異なっていてもnested PCRで増幅されていれば(電気泳動上で濃いバンドが検出されれば)陽性と判定するようです。

また各施設で1例目の陽性の場合は、その塩基配列を確認すべくシークエンス解析を行うことを推奨しています。

 

また感染研のマニュアルでは、上記の逆転写反応→nested PCRという2ステップの方法の他に、リアルタイムone-step RT-PCR法の利用も認める旨が記載されています。

註)リアルタイムone-step RT-PCR法による試験が成立している場合、リアルタイムone-step RT-PCR法のみで結果判定して問題なく、2-step RT-PCR法及び2-step RT-PCR 法によるシークエンス解析を併用する必要はない。

 

リアルタイムone-step RT-PCR法の詳細については省略しますが、リアルタイムPCR用の装置や試薬が必要にはなるものの、1ステップでRT-PCRを行うことができるので、時間短縮やコンタミネーション防止等のメリットがあります。