ケルトン教授と三橋氏との対談 その1「概論、MMT(現代貨幣理論)」

今回のステファニー・ケルトン教授来日にも尽力された、三橋貴明氏(経世論研究所所長)が、自身のYouTubeチャンネルにおいて、ケルトン教授との対談の模様を公開しています。

対談の動画は3つに分かれていますが、まずはその1つ目、MMTの概要について。

主な内容を抜粋してご紹介します。


【三橋貴明×ステファニー・ケルトン】概論、MMT(現代貨幣理論)

(三橋氏)MMTの基本的な知識、ポイントをいくつか教えていただけますでしょうか。

ケルトン教授)貨幣は政府が発行しているということ。
民間企業や家計は貨幣の利用者である。
貨幣の発行者は、お金がなくなるということはない。
お金がなくなって、支払いができなくなる、破綻するということはあり得ない。
つまり、民間企業や家計のような制約には、さらされていない。
政府は、税を徴収できるようになる前に、お金を使わなくてはならない。
つまり、通貨を経済に循環させ、国民に入手させ、それを使わせてから初めて税を徴収する。
それがMMTの中核的な要素であり、政府が貨幣を発行し、その他の主体は貨幣の利用者である。
我々にはない権力を政府が持っている、そして我々のような支出に対する制約にさらされていないということ。

(三橋氏)つまり、いわゆるスペンディング・ファーストということ。

ケルトン教授)そうです。
MMTは順序替えをするんです。
我々が慣れている考え方は、政府が課税によりお金を集めて、その後歳出する。
MMTは、それを逆の順番にしている。
まず政府が支出する、そして二次的に課税する。
つまり、まずは歳出するということ。

(三橋氏)もう1つMMTで感銘を受けたのは、Overt Monetary Financing(OMF)。
実際に政府は、徴税や国債の発行なしで、実際に支出をしているというのは、私も知りませんでした。

ケルトン教授)それは(MMTの)要件ではないですが、可能です。
あるいは、必ずしもMMTがそれを推奨しているわけではありません。
政府には借り入れ(国債発行)をするかどうかの選択がある、そして債務というのは支出の後に来る二次的なオペレーションで、政府は国債を発行しないという選択もできる。
歳出し、部分的な額を課税して回収する、それ以外は経済に循環させておく。
あるいは、国債を発行して債務を採ることもできる。
OMFをやるか、従来型の財政政策をやる=債権を売ることもできる。 

OMFとは、日本でいうと財務省証券などの政府短期証券(1年以内に償還する短期の国債)を日本銀行に引き受けさせることで、あたかもお金を産み出しているかのようであるので、Overt Monetary Financing(明示的な貨幣生成)と呼ばれます。
詳しくは、進撃の庶民様によるエントリを参照ください。

国債発行もOMFも、償還期間が異なるとはいえ、日本銀行に引き受けさせて、お金に替えられるという点では同じであるので、ケルトン教授も政府の選択肢の1つにすぎないと考えているようです。

(三橋氏)政府ではなく民間の話ですが、我々は、預けた銀行預金からお金を借りていると考えていたが、実は貸し出しの時にお金が発行されているというのは、ほとんどの人が知らなかったと思います。

ケルトン教授)そこには混乱があって、金融の実務家であっても、他の人から預かったお金を貸していると認識している人もいるが、それは正しくない。
融資する時にお金を作っている。
つまり、他の人の預金から貸し出すというのなら、銀行から「来週の火曜日に、あなたの預金を別の客に融資するから、あなたの預金残額が減りますよ」と電話がかかってくるはずだが、そのようなことはない。
そのような仕組みではないということ。
顧客が銀行に行き、お金を借りたいと言い、銀行が信用の高い借り手であると判断したなら、銀行は融資をする。
それで顧客の預金が増える。
つまり、何もないところから銀行は融資を作り出す。

これは、民間銀行による信用創造の話ですね。

(三橋氏)自国通貨建ての国債を発行している政府は、財政的な予算制約はない、デフォルトしないという現実がある。
日本の財務省も同様のことをWebページに掲載している。
にもかかわらず、日本国内では、財政赤字財政破綻するという報道がされている。

ケルトン教授)明らかに残念なことです。
自国通貨を持っている国の破綻確率は本質的にゼロです。
日本国政府の借金は自国通貨建てです。
自発的に返済しないということはあるかもしれないが、デフォルトに強要されるとか、円建ての債務を返済するための円がないということはあり得ない。
ギリシアは違う、ギリシアの通貨はユーロであり、ギリシア政府は発行権を持っていません。
ですから、ギリシアではそういう状況に陥るかもしれませんが、日本でもアメリカでも起きない。
つまり、デフォルトの確率は、そういった国では本質的にゼロです。

繰り返しになりますが、自国通貨建ての債務で政府がデフォルトすることはないということです。

(三橋氏)じゃあ政府は無限にお金を発行して良いのかという反発がある。
もちろん政府に予算制約がなくても、別の制約があるわけですよね。

ケルトン教授)そうです。
Fedの元議長であるアラン・グリーンスパンが簡単な言葉で言いました。
政府が米ドルを作り出すことに関しては、無制限にできる、限界はない、と。
だからといって無限にドルを発行するのではなくて、実体経済においてはインフレ制約がある。
政府が(お金を)使いすぎると、需要が急騰して、それは経済の供給能力を超えるかもしれない。
そうするとミルトン・フリードマンが言ったような、あまりの多くの資金が、少ないものを追いかける(=モノ不足)という現象になってしまうかもしれない。
お金が大きすぎるとインフレという制約に直面する。
ただお金がなくなるということはあり得ない。

政府がお金を発行しすぎれば、インフレになりますとのこと。

(三橋氏)今、日本政府は財政目標としてプライマリーバランスの黒字化を掲げている。
本来はインフレ率を財政目標に置くべきだということでしょうか。

ケルトン教授)そうです。
MMTの下で我々が主張しているのは、政策決定者が予算の結果を目標にするというのは、目標設定として正しくないということ。
適正な公共政策の立案の方法は、経済全体の均衡を図るということ。
予算均衡ではありません。
そうではなく、マクロ経済の均衡を図ること。
その潜在能力を極大化するということ。
つまり、インフレ制約はあるけれども、生産能力及び生産性を経済において極大化するということを目標にすべき。
その目標に到達するために、もしかしたら予算が赤字になるかもしれないし、結果として黒字になるかもしれない。
予算均衡を目標にするのではなく、経済均衡が目標となるべき。

(三橋氏)シンポジウムにおいて、ケルトン教授が、政府が経済的バランスを達成できるのであれば、赤字予算であっても予算均衡であるとおっしゃっていたことに感銘を受けました。

ケルトン教授)はい。
つまり、定義をやり直したいんです。
財政責任と均衡予算の定義をやり直したいと思っています。
予算は均衡ではないかもしれないが、経済は均衡しているかもしれない。
そして目標は経済均衡を達成するということ。
経済均衡を達成するために、予算不均衡が必要なのであれば、その予算そのものを均衡と呼ぶべき。

政府は、予算均衡を目標にするのではなく、経済均衡を目的とすべきであるとのこと。

高家さん)MMTについて知ると、政府は税金を取らなくても構わないと思えてくる。
実際はどうなんでしょうか。

ケルトン教授)答えは「ノー」です。
政府が発行する貨幣で全てを賄えばよいと言い出すかもしれないが、その考え方の危険はインフレ制約を見逃してしまうということ。
つまり、政府が貨幣を好き勝手に発行できる、もはや課税しない、使いたい時に使うとすれば、すぐにインフレの問題に直面する。
課税の役割とは引き算である。
政府が経済に支出するお金の一部を引き算する。
それによりインフレが起きないようにする。
インフレを回避するために、課税によりいくら引くか。
徴税額と支出額を同じにする必要はない。
経済において、赤字を吸収できる能力があれば、課税額よりも多く支出しても良い。

(三橋氏)私が税金の役割を説明する時に、支出能力の調整に加えて、ビルトイン・スタビライザーとしての役割や、所得再分配による格差の縮小の役割もあると考えているが、そのあたりはいかがですか。

ケルトン教授)まさにそのとおりです。
税金は重要な役割を果たしている。
1から貨幣を始めるのであれば、その方法として、税金、その他の債務・義務を導入すること。
MMTにおける、貨幣を流通させるために貨幣は重要。
また総需要の調整やインフレの調整においても重要ですし、分配においても重要。
富と所得の分配があまりに偏りすぎて、経済社会問題になりかけていると思ったならば、税を調整することによって、富と所得の再分配を図る。
税金によって、インセンティヴまたは逆インセンティヴを導入できる。
例えば、炭素税やガス税によって経済のグリーン化を進めるとか、課税のインセンティヴを提供することによってグリーンエネルギーや電気自動車を買いやすくすることができる。
ただ、政府支出を税金で払っているわけではないし、それは税金の役割ではない。

(※一部、意味が伝わりやすいように、通訳者の言っていることを修正・補足しています。)

 

税金は、インフレの抑制において重要であり、また富と所得の再分配や、他の経済政策においても重要であるとのこと。

この動画全体を通しての要点は、
①政府が貨幣を発行するので、自国通貨建ての債務(借金)でデフォルトすることはない。
②政府は、まず支出し(Spending First:スペンディング・ファースト)、二次的に課税している。
③政府に予算上の制約はないが、実体経済においてはインフレが制約となる。
④政府は、予算均衡を目標にするのではなく、経済均衡を目標とすべき。
あたりでしょうか。